そして、いよいよ初出勤の日を迎えました。
その日を迎えるまでには、いくつか準備がありました。
まず、会社から雇用に関する書類や各種資料が自宅に送られてきました。
勤務条件や就業規則、提出が必要な書類など、一つひとつに目を通していきました。
分からないことがあれば、そのままにせず、事前に担当者の方へ質問しました。
「初日になって慌てたくない。」
そんな思いがあったからです。
また、健康診断も事前に受診し、入社に向けた準備を進めました。
さらに、通勤ルートも事前に確認しました。
朝は道路が混雑する時間帯でもあるため、自宅から施設まで実際に車で走り、所要時間や駐車場の場所も確認しました。
そして、初出勤の前日には、配属される施設まで下見にも行きました。
建物の場所や入口、駐車場を確認したことで、「明日はここへ来ればいいんだ。」という安心感が生まれました。
こうした準備を一つずつ済ませていたおかげで、初出勤の日を迎えたときには、不安がまったくなくなったわけではありませんが、心配事はかなり軽くなっていました。
60歳で新しい職場へ飛び込むことは大きな挑戦です。
だからこそ、「準備できることは事前に準備しておく」。
このことが、私にとって大きな安心材料になったのです。
朝礼を終え、いよいよ現場での仕事が始まりました。
最初にデイサービスに来られている利用者さんへご挨拶をしました。
「利用者さんが、こんなにたくさんいらっしゃるんだ」
その瞬間、ふと不安がよぎりました。
「皆さんのお顔とお名前を覚えられるだろうか。」
さらに、お一人おひとりが生活されているお部屋も少しずつ覚えていかなければなりません。
もちろん、一日で覚えられるとは思っていませんでした。
それでも、「一日でも早く皆さんのお名前を覚えたい。」
そんな気持ちで、利用者さんお一人おひとりと接するよう心掛けました。
先輩職員の後ろについて、一日の流れを教わります。
午前中は、利用者さんをデイサービスへご案内し、バイタル測定、体操、お茶菓子の準備や提供、レクリエーションのお手伝い、食事介助、排泄介助、入浴介助など、次から次へと仕事が続きます。
昼食後は、食事介助や口腔ケア、排泄介助を行い、午後は再びデイサービスで午前と同じような流れで利用者さんをサポートします。
そして夕方は夕食の食事介助を行い、一日の業務が終わります。
初日は先輩の動きを見ながら一緒に行動していましたが、「介護の仕事は、こんなにも多くの業務を、利用者さん一人ひとりの様子を見ながら進めていくんだ」と驚きました。
前職では、時間ごとに決められた仕事をこなすことが中心でしたが、介護の現場では利用者さんの体調や状況によって、その都度対応が変わります。
だからこそ、周りの職員との連携や声掛けがとても大切なのだと、初日から実感しました。
先輩職員から一つひとつ仕事を教わる中で、特に印象に残ったことがあります。
それは、「利用者さんの安全を守ることが最優先」ということでした。
利用者さんは80歳前後の高齢の方が多く、歩行や車いすへの移乗では、ほんの少しの油断が転倒や転落につながる危険があります。
また、食事介助では、食べ物や飲み物が誤って気管に入ってしまうと、窒息だけでなく、誤嚥性肺炎につながる恐れもあります。
そのため、食事介助の際の姿勢や食べるペース、飲み込みの様子などは、特に注意して見守るよう教わりました。
先輩職員は、この場面になると一段と真剣な表情で説明してくださいました。
「利用者さんの命に関わることだから、ここだけは絶対に気を付けて。」
その言葉が、とても印象に残っています。
私はこの説明を受けて、介護の仕事は日常生活を支えるだけではなく、利用者さんの命を守る責任のある仕事なのだと、改めて実感しました。
「介護の仕事は、こんなにも利用者さんとの距離が近いんだ。」
それが最初に感じた印象でした。
前職では機械や設備を相手に仕事をすることが多く、人と接する時間は限られていました。
しかし介護の仕事は、一日中利用者さんと向き合います。
笑顔で話しかけてくださる方。
少し不安そうな表情をされる方。
何気ない会話を楽しみにされている方。
同じ施設の中でも、一人ひとり違う人生を歩んでこられたことが伝わってきました。
もちろん緊張もしていました。
「何か失敗をしたらどうしよう。」
「利用者さんにご迷惑をかけてしまわないだろうか。」
そんな気持ちは、一日中頭の片隅にありました。
それでも、先輩職員の皆さんはとても優しく、分からないことを質問すると、その都度丁寧に教えてくださいました。
「焦らなくて大丈夫ですよ。」
昼休憩になった頃には、緊張で張りつめていた気持ちが少しだけほぐれていました。
そして午後の業務も無事に終わり、初めての勤務が終了しました。
帰りの車を運転しながら、私は一日を振り返っていました。
正直、疲れました。
覚えることもたくさんあります。
体も思っていた以上に使います。
それでも、不思議と「明日も頑張ろう」という気持ちが湧いていました。
60歳で新しい仕事を始めることに、不安がなかったと言えば嘘になります。
しかし、その不安以上に、新しい一歩を踏み出せた充実感がありました。
もちろん、明日からも覚えることは山ほどあります。
それでも、「一歩ずつ前へ進もう。」
そんな気持ちで家路につきました。
この日が、私の第二の人生、本当のスタートになったのだと思います。
次回は、介護の大変さを感じる中で、利用者さんの「ありがとう」の一言に励まされた出来事についてお話ししたいと思います。


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