第7話 「ありがとう」の一言

初出勤から数日が過ぎ、少しずつ介護の仕事にも慣れ始めた頃でした。

もちろん、まだ覚えることはたくさんあります。

利用者さんのお名前やお部屋の場所、介助の方法など、毎日が勉強の連続でした。

そんな中で、私が特に大変だと感じた仕事があります。

それは、入浴介助です。

私が勤務する施設では、利用者さんの身体の状態に合わせて、一般浴と機械浴に分かれて入浴していただきます。

そのため、それぞれの利用者さんの安全を確認しながら介助を行わなければなりません。

転倒しないように。

体調に変化はないか。

のぼせていないか。

一人ひとりの様子を見守りながら介助を行うため、常に気を張っていました。

最初の頃は、目の前の仕事をこなすだけで精一杯でした。

「次は何をすればいいのだろう。」

「今の介助はこれで良かったのだろうか。」

そんなことばかり考えていました。

入浴介助が終わる頃には、汗で制服がびっしょりになることも珍しくありません。

正直なところ、体力的にも楽な仕事ではありませんでした。

しかし、その日の最後に利用者さんが浴室を出られる時、笑顔でこう声を掛けてくださいました。

「ありがとう。」

たった一言でした。

でも、その一言で不思議なくらい疲れが吹き飛びました。

「ああ、この仕事をして良かった。」

そんな気持ちになれた瞬間でした。

入浴介助だけではありません。

排泄介助でも、利用者さんから「ごめんね」「ありがとう」と声を掛けていただくことがあります。

高齢になると、筋力の低下や認知症などの影響で、ご自身だけでは排泄が難しくなる方も少なくありません。

オムツ交換の最中や介助が終わった後に、

「ごめんね。」

「ありがとう。」

そう言ってくださる利用者さんがいらっしゃいます。

特に、ご自身の状況をよく理解されている利用者さんほど、その言葉を掛けてくださるように感じます。

私はそのたびに、

「そんなに気を遣わなくても大丈夫ですよ。」

と心の中で思っています。

それでも、その「ありがとう」の一言が、私にとっては何よりの励みになっています。

前職でも、お客様や取引先から感謝の言葉をいただくことはありました。

しかし、介護の現場では日常の何気ない場面で「ありがとう」と声を掛けていただけます。

塗り絵をお渡しした時。

色鉛筆をお持ちした時。

お茶をお出しした時。

排泄介助や入浴介助が終わった時。

利用者さんからいただく「ありがとう」は、どれも心からの感謝の言葉でした。

介護の仕事は、決して楽な仕事ではありません。

体力も必要ですし、責任もあります。

それでも、利用者さんの笑顔と「ありがとう」の一言が、明日も頑張ろうと思える力を与えてくれます。

この一言の重みは、これから先も忘れることはないと思います。

次回は、利用者さんとの距離が少しずつ縮まり、私自身も励まされた出来事についてお話ししたいと思います。

コメント

タイトルとURLをコピーしました