第10話 命を預かる責任

介護の仕事を始めて間もない頃。

利用者さんとの会話にも少しずつ慣れ、毎日の業務にも余裕が出始めていました。

「少しは介護らしくなってきたかな。」

そんな気持ちが芽生え始めていた頃、私は介護の難しさを痛感する出来事を経験しました。

デイサービスでは、水分補給の時間になると、利用者さん一人ひとりに飲み物をお出しします。

その中には、飲み込みが難しい利用者さんもいらっしゃるため、飲み物に「トロミ」をつけて提供します。

ある日、私はいつものようにトロミを入れ、よく混ぜたつもりで利用者さんへお出ししました。

しばらくして、先輩職員がコップを回収している時でした。

「太田さん、ちょっと見て。」

そう言って見せてくださったコップの底には、溶け切っていないトロミの粉がダマになって残っていました。

私は一瞬、血の気が引きました。

「ちゃんと混ぜたつもりだったのに……。」

幸い利用者さんに体調の変化はなく、その場は何事もなく終わりました。

私は心の底からホッとしたことを、今でも鮮明に覚えています。

その後、先輩職員が静かに話してくださいました。

「トロミは、ダマが残らないように最後までしっかり混ぜないといけないんだよ。」

そして、

「過去には、トロミの状態が十分ではなかったことが原因で、利用者さんが窒息するような重大な事故につながった事例もあるんだ。」

と教えてくださいました。

その言葉を聞いた私は、介護という仕事が、利用者さんの命を預かる仕事なのだと改めて実感しました。

それ以来、私はトロミを作るたびに、

「本当にダマは残っていないか。」

「最後までしっかり溶けているか。」

必ず確認するようになりました。

ほんの少しの確認不足が、大きな事故につながる可能性があります。

介護では、一つひとつの作業に理由があり、一つひとつの確認に命を守る意味があるのだと学びました。

60歳で飛び込んだ介護の世界。

私は毎日、新しいことを学び、失敗から多くのことを教えていただいています。

あの日、先輩から受けた注意は、私を責めるためのものではありませんでした。

利用者さんの命を守るために、そして私がこれから成長するために必要な、大切な教えだったのです。

私はこれからも初心を忘れず、一つひとつの仕事を丁寧に積み重ねながら、安心していただける介護職員を目指していきたいと思います。


次回予告 第11話「介護はチームワーク」

介護の仕事は、一人で頑張ればできる仕事ではありません。

困った時に声を掛け合い、助け合い、利用者さんの安全をみんなで守る。

私が介護の現場で実感した「チームワークの大切さ」について、お伝えします。

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